Topics from the Museums in the World 2(世界のミュージアム 2)
June 2001, Volume 56
ミュージアムの長い夜

 冬のベルリンは暗いというのがもっぱらの噂である。またそれが、生活すると身に染みて本当であることがわかる。けれどもこの2001年の1月27日は、夏のベルリンが戻ってきたかのような賑わいであった。

 ここベルリンは、博物館の街といえるほどその数が多いが(聞くところによれば200以上あるという)、これらの博物館、美術館、文化施設がそろって行う最も大きなイベントといえば、「ミュージアムの長い夜」だろう。このイベントは年に2回行われるもので、土曜日から日曜日にかけて博物館等が、なんと夜中の2時まで開いているというものなのである。このときはベルリン交通社の協力により、8つのバスルートが街中に張り巡らされ、皆を行きたいところへと運んでくれる。今回で9回目というその夜に私も、全部で71個所といわれる選択肢から4つほどの展示を巡ってみた。

 午後7時、まずはACUD。ここは作家たちが占拠してしまった建物の一つだ。最近はこのような組織も見かけなくなってきたが、彼らは独自の映画館やカフェ、アトリエ公開などで自主営業をつづけている。次は、シュロス広場近くのマリエン教会へ。神聖な場所のイメージであった教会に置かれていたものは、百台ものテレビで、それが亀甲型に設置されていた。これは、現代的にアレンジされたクラシック音楽に合わせ、カメの甲羅が色鮮やかに変化するナム・ジュン・パイクのビデオ・インスタレーション。なんだかここで言葉少なく見とれてしまい、思った以上に時間を取ったことに気づき次の会場へ。思いがけなく入ったニコライハウスで小コンサートを聞き、それからバスで、ベルリンの中心にあって、今「トレンド」といわれているポツダム広場に向かった。バスの運転手さんは、いつもむっとしている感じなのに、今日はにこやかに「ようこそミュージアムの長い夜へ」と挨拶し、どこで何をやっているか、またはどこが込んでいるのか案内してくれる。私たちが行こうと思っているフィルムハウスも人気があるとか。最近できたばかりのその映画ミュージアムはやはり長蛇の列だった。これはあきらめ、再びバスでベルリンで一番大きな駅ZOO駅周辺へ。午前0時。最後に私たちが選んだのは、アクアリウム。ここも人で混雑ぎみだったが、動きが少し鈍くなってきた体と心をここで落ち着かせて家に帰ることにしたのである。

 この長い夜の参加者は5万人前後で、なんとこの一夜で一人が平均4個所もの会場を回った計算になるそうである。特に人気のあった場所は、フィルムハウスの他に、やはり最近オープンしたばかりだったメキシコ大使館や、異型人体のサンプルがある医学博物館など。ベルリンの人は本当によくさまざまな文化的なイベントに参加するが、特に夜となるとまたちがう血も騒ぎ出すのだろうか。さて次回の「ミュージアムの長い夜」は8月25日の予定。恐らくもっと人の出が多いだろう。念入りな計画とちょっぴりの余裕をもって楽しみたいものである。


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