Topics from the Museums in the World 8(世界のミュージアム 8)
June 2002, Volume 62
イーストプロダクト博物館


 むかし、ビールをつくっていた工場が文化センターになった。ここはアレキサンダープラッツ駅から地下鉄で北に3つ目、エヴァーズバルター駅の隣、レンガ造り、立派な中庭がある巨大な建物である。いまは、映画館、ビアガーデン、アトリエ、ファッションショーができる大きなホールなど文化的にさまざまな機能をもつ場所として知られている。この場所の一角にドイツ歴史博物館の分館として、旧東ドイツの工業製品コレクションと資料を見せるイーストプロダクト館がある。現在は、3つの展示室があり、車(トラバント)・バイクとその宣伝、陶磁器・ガラス製品、梱包紙やポスター類の広告美術の部門に分かれている。

 ベルリンで生活をしていると、東の製品であった生活用品(特に食器、家具、そして車も!)を見ることはそれほど珍しいことではない。しかしそれら製品にまつわる広告などは、当時の社会において人々への教育的役割を担っていたために、東西統一後はその製品が成り立った経緯とともに、すでにここでの生活からは姿を消してしまっている。そういった宣伝美術が見られることが、ここイーストプロダクト館の特徴であろう。クリスマス用包み紙、買い物袋、ワッフルのためのビニール製の梱包材、切断される前の牛乳パック紙のロール、あるいは映画・劇場の宣伝、子どもの本の出版記念、国家40周年記念祝祭、モスクワオリンピックへの旅行誘致、コーミッシュオペラで開催される「マクベス」のポスターなど。

 国家のプロバガンダという名の元に私が想像していた当時の広告とは、社会主義リアリズム調で描かれたものだったが、博物館の一室で実際に目にしたものは鮮やかな配色、平面構成で考案された「デザイン」であった。1950年代、60年代のそれらは、異国で育った者にとっても懐かしさを感じさせるものである。巨大な国家をあげての催し物の宣伝は、東ドイツの旗の色やマークが第一に目に入るようにつくられているが、ちょっとした買い物袋や梱包紙からはデザイナーの真摯な態度がうかがえる。

 しかしながら、ひとつ気になったことはショッピングバックに数多く見られる「Konsum(コンズーム)」という文字であった。日本語にすれば「消費」。「買い物=消費」という図式はかなり直接的な表現で、日本の「消費社会」ということを思い出せば、買い物の悪いイメージが浮き上がる。バック全体のデザインは購買力増進の宣伝効果をもっているものの、この言葉の真の意味はなんであるのか。もしかしたらここに社会主義といったものの通念が埋め込まれているのではないかと深読みしたが、なんのことはない。「Konsum」は、各地に広がっていたあるスーパーの名だったのである。しかし疑問は次の考えへと移った。そのような「消費スーパー」があった社会とは、どのようなものだったのだろう。

この博物館見物の極め付けには、最寄り駅高架下にあるソーセージとフライドポテトを出す立食屋で、東ドイツからの味を楽しむ。ここはベルリン人の半数が太鼓判を押す所である。


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