Topics from the Museums in the World 5(世界のミュージアム 5)
(December 2001, Volume 59)
政治&歴史&美術博物館—ライヒスターク

クリスチャン・ボルタンスキー《ドイツ国会議員の記録》(1999年)。


 イギリスの建築家、ノーマン・フォスターの構想でベルリン、ライヒスターク(国会議事堂)は現代的に改装され、政治の中心として再び活動しはじめた。カイザー時代、デモクラシー、ナチス、戦争、破壊、占領、敗戦、西ベルリン、東西統一と近年の重要な歴史の表舞台となったこの建物は、ようやくいま、本来の役割を確保したようだ。

 屋根の上に取り付けられたフォースタードームと呼ばれるガラスでつくられた巨大な円盤はすでにこの都市の象徴である。建物の見学やドームに上がることもでき、長い行列はいつも絶えない。中に入り、新しい建物を堪能しながら内部に絵画、写真、彫刻等が飾ってあることがわかる。どうしてこんなにここで作品を見ることができるのであろう。中学生のときに見学した日本の議事堂を思い出してみた。芸術に関しての記憶はなにもない。

 政治と建築と美術の関係をもう少し探ってみるべく、9月のある週末、「ライヒスタークのアート」というガイドに参加した。総勢20名ほど。ベルリン以外の人もかなり多い。ガイドさんは、この建物の歴史、現在の役割など一通り説明し、正味2時間ほど次々に作品のある場所の前で作品解説をしていく。いくつか気になった作品をここに取り上げよう。

 正面入口の左には《黒、赤、金》というタイトルのゲルハルト・リヒターの作品。これは正確には色、形、大きさはちがっているのに、ドイツ国旗がすぐに頭に浮かぶ。建物の上階から中庭をのぞくと、ハンス・ハーケの《この地に住む者のために》という白い文字が現われる。これは建物の正面フリーズに書かれた「ドイツ国民のために」という文字に疑問を投げかけたものだという。

 もちろんドイツ人作家の作品は一番に多いのだが、他国からも招待されている。ライヒスタークで説かれた演説を黒い柱上に下から上へ電光文字で流す、アメリカのジェニー・ホルツァー。フランス、クリスチャン・ボルタンスキーの作品《ドイツ国家議員の記録》は地下に設置された。A4サイズほどの錆が目立つメタルの箱が積み上げられ、収蔵庫のような雰囲気のある一角である。箱には、名前、党名、在籍期間が書かれたシールが張られていた。それから、当時ソ連であったロシアからの作家も見受けられ、コレクションは、ドイツ人作家と第二次世界大戦時の連合国作家で占められている。

 しかし作品よりも迫力があったのは、内部に書かれた無名のいたずら書きであろう。そうかここもグラフィティか、と思ったがそれは終戦直後、ここを占拠したロシア兵が残していったものだという。改築ながらフォスターはこの場で歴史を残すという作業をし、そして才能ある現代作家とのコラボレーションにより、ここは政治&歴史&美術博物館として機能しているのだと、帰途につきながら思った。


         
ゲルハルト・リヒター《黒、赤、金》(1998年)。
ハンス・ハーケ《この地に住む者のために》(1999/2000年)。
ロシア兵が残したいたずら書き。


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